新規参入メーカーが、驚くような安値で提案してきた。
こちらの商品の良さをいくら説明しても、お客様の目は価格表に向いたまま。
そんな場面で、私がコピー機を販売していた頃に使っていたのが、自分の言葉ではなく、第三者のデータに語ってもらうという方法です。
今回は承諾心理シリーズの3回目、「社会的証明」を取り上げます。
承諾心理シリーズについて
このシリーズでは、ロバート・チャルディーニの『影響力の武器』で紹介されている、人が「はい」と言いたくなる心理を、営業の現場に落とし込んで解説しています。
- 返報性
- コミットメントと一貫性
- 社会的証明(今回)
- 好意
- 権威
- 希少性
(最近の版では「一体感」が加わり、7つの原則として紹介されています)
社会的証明とは
『影響力の武器』では、社会的証明の原理は次のように説明されています。人がある状況で、何を信じるべきか、どのように振る舞うべきかを決めるとき、ほかの人々がそこで何を信じ、どう行動しているかを重視する、というものです。
身近な例は、たくさんあります。
- ネットで買い物をするときのレビュー(口コミ)
- 食べログなどの点数
- 本の帯に書かれた「50万部突破」
- 「10週連続売上トップ」といった表記
特に、数字のデータは効果が高いとされています。新聞や経済誌に載っている内容を、つい信用してしまうのも同じ仕組みです。
実験でも確かめられている
ホテルの客室で、タオルの再利用を呼びかける実験があります(ゴールドスタイン、チャルディーニらの研究、2008年)。
「環境保護のためにご協力ください」という一般的なメッセージよりも、「この部屋に以前泊まった多くのお客様が、タオルを再利用されました」というメッセージのほうが、再利用率が高くなったと報告されています。
人は理屈で説得されるより、「自分と近い人たちが実際にやっていること」に動かされやすいのです。
営業で使う:安値提案を覆した経験
私がコピー機を販売していたとき、新規参入メーカーの安値提案を覆す場面がありました。
そのとき、お客様にお見せしていたのは、次の2つです。
- メーカー別のシェア表
- アフターフォローの満足度調査のアンケート結果
そのうえで、こう切り出します。
「安値攻勢で販売していても、シェアは伸びていないんです。なぜシェアが伸びていないのか、ご存知ですか?」
ここで大切なのは、答えを私から言わないことです。お客様と一緒にデータを見ながら、コストとリスクを対比していきます。
安さの裏には、故障時の対応やアフターフォローの差があるかもしれない。それを、私が「うちのほうが良い」と言うのではなく、第三者の数字が示してくれる。お客様は自分で比較して、自分で納得します。結果として、安値提案を排除することができました。
セキュリティ機器でも同じ
セキュリティ機器を販売するときは、セキュリティ事故の新聞記事が効果的でした。
「うちは大丈夫」と思っているお客様でも、実際に起きた事故の記事を目にすると、他人事ではなくなります。
営業が不安をあおらなくても、事実が語ってくれます。
使うときに気をつけたいこと
社会的証明は強い力を持つぶん、使い方を間違えると信頼を失います。
- 事実だけを使う:数字は出典を明記し、古いデータや都合のいい切り取りは避けます。
- 誇張しない:「みんな使っています」ではなく、「〇〇業界で△社が導入しています」のように具体的に示します。
- 相手に近い事例を選ぶ:同じ業種、同じ規模の事例ほど、「自分ごと」として響きます。
- 比較は相手と一緒に行う:データを見せて結論を押し付けるのではなく、お客様に考えてもらう形にします。
今週やってみてほしいこと
今週は、「社会的証明」を準備して商談に臨んでみてください。
- 自社の導入実績や、シェア・満足度などの第三者データを1枚にまとめる
- 新聞記事や業界の資料など、お客様が「他人事ではない」と感じる事実を1つ用意する
- 商談では結論を言わず、「なぜだと思われますか?」と問いかけて一緒に見る
特別な資料は要りません。すでに社内にあるデータを、お客様の目線で選び直すだけで十分です。
まとめ
- 社会的証明とは、他の人々の行動を判断の拠り所にする心理
- 数字のデータや、新聞・経済誌などの第三者情報は特に効果が高い
- 自社の良さを自分で語るより、第三者の事実に語らせる
- 結論は言わず、お客様と一緒にコストとリスクを対比する
- 事実だけを使い、誇張しない
「根拠の見せ方」を、チームの力にする
ここまで読んで、「資料はあるのに、結局価格の話で終わってしまう」と感じた方もいるかもしれません。
データを持っていることと、商談の流れの中で、相手の納得につながる形で見せられることは別の話です。
特に若手は、資料を説明することで精一杯になり、お客様と一緒に見る余裕がありません。
弊社では、管理職向けには、部下が商談で使う根拠資料を整え、「どの場面で、何を見せるか」を指導できるようになる研修を、若手向けには、第三者のデータを使ってお客様自身に比較してもらう商談の進め方を身につける研修を、それぞれ用意しています。
「価格の話になると、もう押し返せない」
心当たりがあれば、問い合わせよりご連絡ください。
現状をうかがった上で、どこから手を入れると一番早く変わるか、一緒に整理します。
参考文献
- ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器』(誠信書房)
- Goldstein, N. J., Cialdini, R. B., & Griskevicius, V. (2008). A room with a viewpoint: Using social norms to motivate environmental conservation in hotels. Journal of Consumer Research, 35(3), 472-482.