営業で「お返事は25日までにお願いします」と伝えたのに、期日を過ぎても連絡がない。そんな経験はないでしょうか。
実はこれ、伝える内容ではなく、伝え方で変わることがあります。
今回は、承諾心理シリーズの2回目、「コミットメントと一貫性」を取り上げます。商談の中で、お客様の「YES」を自然に引き出すための考え方と、明日から使える言い回しをお伝えします。
承諾心理シリーズについて
このシリーズでは、ロバート・チャルディーニの『影響力の武器』で紹介されている、人が「はい」と言いたくなる心理を、営業の現場に落とし込んで解説しています。
- 返報性(前回)
- コミットメントと一貫性(今回)
- 社会的証明
- 好意
- 権威
- 希少性
(なお、最近の版では「一体感」が加わり、7つの原則として紹介されています)
コミットメントと一貫性とは
コミットメントと一貫性とは、自分の言葉、信念、考え方、行為を一貫したものにしたい、あるいは、他者からそう見られたいという心理的な欲求のことです。人間の行動を動機づける大きな力の一つとされています。
私なりの解釈ですが、人は幼いころから「嘘をつくな」「約束を守りなさい」と教えられて育ちます。だから、自分が下した決断や、口にした言葉を正当化しながら行動するようになるのではないかと考えています。
自分自身を振り返っても、思い当たるはずです。お客様とした約束や、友人とした約束は、できる限り守ろうとしますよね。
実験でも確かめられている
この心理を示す有名な研究に、フリードマンとフレイザーの実験(1966年)があります。
家の庭に「安全運転」と書かれた大きな看板を立ててほしい、と住民にお願いする実験です。いきなり頼んだ場合、承諾したのは約17%でした。ところが、事前に「安全運転」と書かれた小さなステッカーを窓に貼ってほしい、という小さなお願いを承諾してもらっていたグループでは、約76%が大きな看板も承諾したと報告されています。
一度「はい」と言った人は、その後も「はい」と言い続けやすい。
これが一貫性の力です。
商談に盛り込む方法は「YESを引き出す」こと
この心理を商談でどう使うか。一言で言うと、お客様の「YES」を引き出すことです。
以前の営業レシピ「YESで商談をコントロールする」は、まさにこの心理の活用でした。たとえば、次のような言い回しです。
- 「椅子に掛けさせていただいていいですか」
- 「冒頭に2、3質問させてもらってもいいですか」
- 「お聞きしづらいことを1つだけ伺ってもいいですか」
- 「提案させてもらってもいいですか」
- 「もし仮にこの条件にできれば、前に進めてもらっていいですか」
共通しているのは、自分がしたいことを「〇〇していいですか」と相手に尋ね、ボールを渡していることです。
相手が「どうぞ」と答えた時点で、小さなコミットメントが生まれます。そして、人は自分の言葉に一貫した行動を取りたくなります。
期限の伝え方で考える
もっとも差が出やすいのが、提案の返事の期限(エンド)を伝える場面です。
こんな言い方で終わっていないでしょうか。
「今回の価格はメーカー決算の3月限定の価格なので、お返事は25日まででお願いします」
内容は間違っていません。ただ、これは一方的な通告です。お客様は聞いただけで、約束はしていません。
同じ内容を、次のように変えてみます。
「今回の価格はメーカー決算の3月限定の価格なので、お返事は25日までとなっておりますが、大丈夫でしょうか?」
違いは最後の一言だけです。
ただ、お客様が「大丈夫です」「わかりました」と自分の口で答えることで、期限が「言われたこと」から「自分が約束したこと」に変わります。
ポイントは、「大丈夫でしょうか?」「可能でしょうか?」と、相手にボールを渡すことです。
使うときに気をつけたいこと
この心理は、使い方を間違えると逆効果になります。
- 答えにくい形で迫らない:相手が「はい」としか言えない空気をつくると、後で反発されます。本当に「いいえ」と言える余地を残します。
- 守れない約束を引き出さない:無理に取り付けた「YES」は、守られません。お客様が実際に実行できる範囲のお願いにします。
- 小さなYESから積み重ねる:いきなり大きな承諾を求めず、「質問してもいいですか」のような小さな確認から始めます。
あくまで、お客様が自分で決めたと感じられるようにするための技術であり、言わせるための技術ではありません。
今週やってみてほしいこと
今週は、商談の中で「お客様のYES」がいくつもらえたかを数えてみてください。
- 商談の冒頭で「2、3質問してもいいですか」と確認する
- 提案の前に「提案させていただいてもよろしいですか」と聞く
- 期限を伝えたら、必ず「大丈夫でしょうか?」で締める
1回の商談で3つもらえれば、十分です。数えるだけで、自分の話し方の癖が見えてきます。
まとめ
- コミットメントと一貫性とは、自分の言葉と行動を一貫させたい心理
- 一度「YES」と言った人は、その後も「YES」を続けやすい
- 「〇〇していいですか」とボールを渡し、相手の口から答えてもらう
- 期限は言い切らず、「大丈夫でしょうか?」で確認する
- 守れる範囲の、小さな確認から積み重ねる
商談の「YES」を、チームの型にする
ここまで読んで、「自分の言い方は言い切りで終わっていたかもしれない」と感じた方もいるかもしれません。
こうした言い回しは、一度聞けば理解できます。ただ、商談の緊張の中で自然に出てくるかどうかは、別の話です。
若手ほど、説明に必死で、ボールを渡す余裕を失いがちです。
今日の商談から意識してみてください。少しずつでも、前に進んでいきましょう!
参考文献
- ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器』(誠信書房)
- Freedman, J. L., & Fraser, S. C. (1966). Compliance without pressure: The foot-in-the-door technique. Journal of Personality and Social Psychology, 4(2), 195-202.