同じ内容を提案しているのに、あの営業の話だけは、なぜかお客様が最後まで聞いてくれる。
その差は、トークの上手さではなく、提案を始める前にお客様がどれだけ好意を持ってくれているかで生まれていることがあります。
今回は承諾心理シリーズの4回目、「好意」を取り上げます。
承諾心理シリーズについて
このシリーズでは、ロバート・チャルディーニの『影響力の武器』で紹介されている、人が「はい」と言いたくなる心理を、営業の現場に落とし込んで解説しています。
- 返報性
- コミットメントと一貫性
- 社会的証明
- 好意(今回)
- 権威
- 希少性
(最近の版では「一体感」が加わり、7つの原則として紹介されています)
好意とは
一言で言うと、好意を抱く人に、同意したくなる心理です。
人は、好きな人、親しみを感じる人からの頼みごとには「はい」と言いやすくなります。逆に言えば、提案内容が同じでも、相手に対する好意の大きさで、返事は変わります。
この好意に影響する要因は、5つあると考えられています。1つずつ、身近な例で見ていきます。
好意に影響する5つの要因
第一の要因:見た目の印象
きちんとした身なりをしているだけで、知性を感じる。礼儀正しく挨拶をしてくれるだけで、誠実さを感じる。
その人をよく知らなくても、人は見た感じで、無意識に判断してしまう傾向があります。商談では、第一印象がその後の話の聞き方を左右します。
第二の要因:類似性
見ず知らずの人ばかりの集まりで、出身地(大阪つながり)や年齢(同世代)が同じだとわかっただけで、なぜか親近感が湧くことがあります。
無意識に、他の人よりも好意を持ってしまう。これが類似性です。
出身地、趣味、経歴、家族構成など、共通点を見つける質問は、商談の入り口として有効です。
第三の要因:称賛
自分のことを褒められると、なぜか好意を抱いてしまう。たとえお世辞だとわかっていても。
人は、自分を認めてくれる相手を、嫌いになりにくいのです。
ただし、中身のない褒め言葉は見抜かれます。具体的な事実を挙げて褒めるのがポイントです。
第四の要因:接触回数
最初はそれほどでもなかったのに、何度か会ううちに好きになっていく。これも好意の要因の一つです。
心理学では「単純接触効果」として知られ、ザイアンスの研究(1968年)でも、繰り返し接するほど好意が高まることが報告されています。
ただし、『影響力の武器』では、接触が好意につながるのは良好な条件のもとで会う場合とされています。
苦手な印象のまま回数だけ増やしても、逆効果になることがあります。
第五の要因:連合
一言で例えると、「阪神ファン同士」です。まったく知らない人なのに、同じものを好きだというだけで、なぜか好意を抱いてしまう。
好きなチーム、好きな地元、同じ業界の苦労。
同じものにつながっているという感覚が、距離を縮めてくれます。
私のオリジナル:「秘密ごとの共有」
5つの要因に加えて、私は「秘密ごとの共有」も、好意につながると考えています。
「この話は平井にしかしていないので、他の誰にも言わないでほしい」
そう言われると、無意識に距離が近くなりませんか。
頼られている、信頼されている、という感覚が生まれるからです。
では、お客様に対して「ここだけの話なんですが……」と切り出すと、どうなりそうでしょうか。
お客様は、特別に扱われていると感じ、身を乗り出して聞いてくれるはずです。
使うときの注意
ここは、特に気をつけてほしい点です。
- 本当のことだけを話す:「ここだけの話」と言いながら、誰にでも話している内容では、信頼を失います。
- 他社や他のお客様の情報は話さない:守秘義務のある情報を漏らす営業は、結局信頼されません。
- 自分の失敗談や、現場の本音から選ぶ:たとえば「実は、この機能は最初の設定が少し面倒なんです」といった、正直な話が相手との距離を縮めます。
今週やってみてほしいこと
5つの要因すべてを一度に意識する必要はありません。今週は、次の3つに絞って営業に臨んでみてください。
- きちんとした身なり:商談の前に、靴、シャツ、カバンの状態を確認する
- 丁寧な挨拶:受付の方にも、お客様にも、自分から先に、目を見て挨拶する
- 相手への称賛:オフィスの工夫、実績、人柄など、具体的な事実を一つ見つけて伝える
この3つは、準備さえすれば、誰でも明日から実行できます。
まとめ
- 好意とは、好意を抱く人に同意したくなる心理
- 要因は「見た目の印象」「類似性」「称賛」「接触回数」「連合」の5つ
- 著者の実感として「秘密ごとの共有」も距離を縮める
- 提案の前に、まず好意を育てる
- すべて、本当のことを、具体的に
「入り口の力」を、チームの力にする
ここまで読んで、「身なりや挨拶が大事なのは分かっているが、現場ではできていない」と感じた方もいるかもしれません。
好意の要因は、知っているだけでは変わりません。
商談の最初の数分で、自然に実行できるかが分かれ目です。
今週は、特に「きちっとした身なり」「丁寧な挨拶」「相手への称賛」を意識して営業してみましょう!
参考文献
- ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器』(誠信書房)
- Zajonc, R. B. (1968). Attitudinal effects of mere exposure. Journal of Personality and Social Psychology, 9(2, Pt.2), 1-27.